- コラム
事例2「ハンバーガーの攻撃、再び!」
【シチュエーション】
あなたは今週末、結婚式に出席することになっています。
あなたは冠婚葬祭用のスーツを1着しか持っていません。ぎりぎりになって服装のことで慌てないよう、そのスーツをクローゼットから出し、ほこりを払ってから着てみようとしましたが・・・
なんとズボンのボタンが留まらないのです。
不本意ながらお風呂場にある体重計に乗ってみると、ここ3週間で7kg近く太ってしまったことがわかりました。
【指摘事項(問題点)】
比較的短い期間で7kg近く太ってしまった。
速やかに問題を解決する必要性を痛感したあなたは、是正処置を実施して順調に一日を過ごせるよう、また同じ問題が再発しないよう、問題解決法として根本原因分析のアプローチを採用することに決めました。
事例2に対する悪い根本分析の例
指摘事項(問題点)
比較的短い期間で7kg近く太ってしまった。
修正
夕食の際にデザートを控えるよう妻に頼む。
根本原因分析
分析に用いた手法→「なぜなぜ(5-WHY)分析」
”なぜ”その1:どうして7kgも体重が増えたのか?
→甘いものの食べすぎ。
”なぜ”その2:どうして甘いものを食べ過ぎるのか?
→夕食のたびに出されるデザートを食べてしまう。
”なぜ”その3:なぜ毎晩デザートをと食べてしまうのか?
→意志が弱いから。
根本原因
意思が弱い。
是正処置
- 大きいスーツを買いなおす。
- 今後は、「脂肪分ゼロ」のスナックを買う。
- 毎日食べるドーナツの数を1つ減らす。
- ハンバーガーを買うときは「バリューメニュー」をやめて単品で買う。
考察
どうしてこれが”悪い例”か考察してみましょう。
この例では、事例1で必要になった「なぜなぜ(5-WHY)分析」を用いています。
しかし、それが生かされず悪い例となってしまいました。
その原因を探っていきましょう。
原因究明の方向性が個人の特性に向かってしまい、再発防止のための真の原因にいたっていません。
「意思が弱い」のは原因の1つですが、改善策につながる原因ではありません。
システム上の改善策が見えてこず、根本原因と是正処置がつながっていないのです。是正処置とは、根本原因をなくすことで再発防止につなげていくことをいいます。
・スーツを買いなおすと意思が強くなるのでしょうか?
・ドーナツを我慢できる強い意思はどこからでてくるのでしょうか?
・バリューメニューの件は根本原因として出てきていないのに、なぜ対策をとったのでしょうか?
根本原因と是正処置が問題に対して有効かどうか見直すと、以下のことがわかります。
・スーツの買い替えは修正にすぎません
・ドーナツを控えるという宣言は効果が期待できません
・根本原因分析の記録には洩れがあります
この事例での「意思が弱い」というのは具体的には「3週間で7kg太るほど甘いものの誘惑に勝てず」、「デザートがあれば我慢できない状態」を指しています。
“なぜ”その1→甘いものを食べすぎ。
「なぜなぜ(5-WHY)分析」の最初の“なぜ”から分析は進んでおらず、言い換えが行われているだけです。
この点も、この事例を悪い例としている原因の1つであることに気がつきましょう。
事例2に対する良い根本分析の例
指摘事項(問題点)
比較的短い期間で7kg近く太ってしまった。
修正
大きいスーツを買いなおす。ダイエットを始める。
根本原因分析
分析に用いた手法→「なぜなぜ(5-WHY)分析」
”なぜ”その1:どうして体重が7kgも増えたのか?
→朝に職場でドーナツを3個食べるようになり、昼は近所に開店したハンバーガーショップから毎日”バリューメニュー”を配達してもらい、午後には毎日スナック菓子を1袋平らげ、夕食はいつもおかわりし、デザートで締めくくっている。
”なぜ”その2:どうして食べ過ぎるのか?
→職場でのストレス。健康的な食事を準備する時間的な余裕もない。甘いものを食べるとストレスが軽減される。
”なぜ”その3:なぜ職場でのストレスを感じているのか?
→日々、納期に追われており、また部下が退職したために業務が増えた。日中は仕事に没頭し、自分が食べ過ぎているという自覚がなかったし、健康食でなくカロリーの高い食べ物ばかり食べていることにも気づかなかった。
根本原因
職場におけるストレスと業務負担の増加
是正処置
- アシスタントを雇う。
- 業務負担も減るので、ランチの時間にジムに通い30分間運動する。
- ジムで汗を流すことで仕事のストレスからも開放され、甘いものへの依存も軽減されるであろう。
考察
どうしてこれが”良い例”か考察してみましょう。
この例でも「なぜなぜ(5-WHY)分析」を用いています。
何が違うのでしょうか?
まず、「根本原因の特定には事実の確認が必須だ」ということを理解しなければなりません。
「なぜなぜ(5-WHY)分析」は、改善の対象になる根本原因を特定するために、確認した事実を因果関係に基づいて整理していく手法です。
是正処置は過去に起きた問題を取り扱うので推論が必要になる場合もありますが、確認できた事実と矛盾がないか、推論通りに再現するか、推論から導かれた改善案は実際に効果があるかなど必ず事実と結びつけることが重要になります。
「“なぜ”その1」で事実確認がきちんされているため、「“なぜ”その2」でストレスや業務負担という根本原因を特定することができました。
また、あらゆる問題は、さまざまな要因が関係しあって発生するものですから、恒久的な対策につながるシステム上の改善点を見つけるという明確な方向性を持っていないと、絡み合う要因の中で迷子になってしまいます。
「なぜなぜ(5-WHY)分析」は根本原因の特定に有効な方法ですが、要因があまりに複雑な場合は他の分析手法が必要になることもあるでしょう。是正対象になる根本原因も1つとは限りません。「根」のように絡み合うさまざまな要因の中から対策の「本命」を見つけてこそ「根本」原因の分析なのだと理解したいところです。
事例から学ぶ:修正と是正処置
- 事例1「はずれた眼鏡のレンズ」
- 事例2「ハンバーガーの攻撃、再び!」
- 事例3「QMS:いつもみんな大忙し」
- 事例4「EMS:忘れん坊の排水処理」