検査・試験の限界



製造に携わっているみなさまは、普段から決められた段階ごとに、特定の基準に基づいて検査や試験を行っているかと思います。また、サービス業の場合は、検査や試験という言葉は使用してはいないとしても、何らかの確認やチェック作業を行っていると思います。これらの検査や試験、確認やチェックの最大の目的は、製品やサービスが、ある基準に対して適切であることを客観的に判断することで、顧客や法規制要求事項を満たした状態にあることを担保するというものです。
今回はこの検査・試験や確認・チェックが完全であるかを考えてみましょう。
答えから言えば検査や試験は完全ではありません。もしも、完全であるならば市場におけるクレームは発生していないことになるわけですが、審査を通じて、何らかのクレームが発生していることを確認しています。製品やサービスによっては、表面上はクレームが発生していない組織もありますが、実際は要望や依頼といった表現を用いているなど、クレームとして扱っていないだけで、内容としてはグレーな内容のものも多くあります。
それでは本題に戻り、みなさんに1 つ質問します。あなたが購入しようとしている「製品」があるとします。その「製品」を作っているのが「A 工場」と「B工場」です。あなたはそれぞれの工場を実地で検証した上で、どの工場から購入するかを決定するとします。さて、どちらの工場を選ぶでしょうか?

工場の特徴は次のとおりです。

■A工場
工場内は散らかっており、作業員のやる気もなさそうな感じです。ただし、出荷前には能力のある検査員が、精度の裏付けられた機器を用いて、適切な環境で、確実に検査を行っていることが確認できました。

■B工場
工場内は整理・整頓されおり、作業員も適切な教育・訓練を受けて、意識をもって作業手順に従って確実に作業を行っています。ただし、検査・試験は実施せずに出荷を行っていることが確認されました。

この質問は、審査やセミナーを通じて多くの方にしているのですが、回答は、概ね「A 工場」が60%、「B工場」が40%の割合でした。
この結果から、まだまだ検査・試験に対する信頼は高いと感じています。実はISOの規格で言うと「A 工場」が7.5.1項、「B工場」が7.5.2項となります。つまり、現状のISO 規格でも、検査・試験には限界があり、そのためには検査・試験に頼らない「工程や現場での作りこみの精度向上」を求めているのです。
検査・試験がなぜ完全でないかの要因はさまざま考えられるでしょうが、作業員の意識レベルが均一ではない(自身の聞き取りでは休み明けに業務復帰後、完全に業務に慣れるタイムラグは約半日かかる)、作業を行う温度や湿度、原材料の品質特性は同じではない、使用している設備や道具は経年劣化を行うなどが挙げられます。

それでは、検査・試験が完全ではないからといって、顧客や市場はクレームに寛大でしょうか? 当然、寛大ではありませんから、みなさまは次の対応をせざるを得ないのですが、前述したように7.5.2項の「製造及びサービス提供に関するプロセスの妥当性確認」において管理を行っておられるのです。

この項目の重要性を再認識していただき、検査・試験が完全ではないことをもって今後の工程管理や業務管理の在り方を考えてみましょう。そこから見えてくる1つの方法として「リスクアセスメント」があります。次回は、この「リスクアセスメント」の考え方について 述べてみたいと思います。

PJR 審査員 伊藤 隆章(いとう・たかあき)
金融機関勤務を経て、2000年より、ペリージョンソン レジストラーにて審査業務に従事。自動車、鉄道関連をはじめとする製造業への審査は1,000件以上。セミナー研修の企画・開発に携わるとともに、自ら講師も務める。趣味は空手(県大会での優勝多数)と写真(愛機はニコン)。

※本コラムは、PJRニュースレター「WORLD STANDARDS Review」に掲載されたものの再掲です。