マネジメントシステムの標準化における2つの「軸」



「マネジメントシステムの運用により組織内における標準化を図る」という言葉を、審査を通じてよく耳にします。今回はこの「標準化」について考えてみましょう。

各組織がISOなどのマネジメントシステムを導入されたきっかけは、さまざまかと思います。その一方で、導入する際の「動機」について訊ねると、多くの場合「標準化」という答えが返ってきます。

では、この「標準化」とは何でしょうか?

その詳細を聞くと、「現状の業務においてバラツキがある。従って、このバラツキを解消するために手順を定め、『誰がいつ行っても同じ成果が達成される』システムを構築する。このことが組織におけるマネジメントシステムに整合性があり、完全な状態にて運用されていると判断できる」との考えがあるようです。

この考えは現状のバラツキという懸念、つまり属人性に依存することによる不完全性から発生するリスクに対する解決策として、「標準化」が必然的に導き出されているわけです。また、審査の現場においても、過去から現在に至る組織の状態がいかに管理され、マネジメントシステムが運用されているかをチェックすることになるわけですから、ISOの認証制度上もその目的を達成しているといえるわけです。
ただし、過去はさておき(なぜなら過去に対して直接的な関与を行うことは不可能であるため)、現状におけるシステムの完全性を「標準化」としてとらえた場合に、本当にこれだけでよいのかと感じることがあります。

もちろん、現在という「点」を基準とした水平展開(「横軸」)の「標準化」に寄与していることは間違いありません。しかし、時間を考慮した垂直方向の「縦軸」で考えた場合、はたして将来に向かった未来形の「標準化」は実現できているでしょうか。この問題が顕在化する事例としては経営層の交代が挙げられ、これは広くとらえれば「事業継承」とも関連してくる問題といえます。現場における管理責任者の交代や人事異動などによる人的資源の変化時にも、顕在化することが大いに想定される問題といえるでしょう。

それでは、具体的にどんな問題点が顕在化すると考えられるでしょうか?

例えば経営層の交代において水平展開された「標準化」を効果的に「事業継承」できるか、また管理責任者や人事異動が発生した場合に新任の担当者が同様に「標準化」を継承できるか、といった課題が見えてくるかもしれません。

この点は審査において客観的に判断することは困難な事象であり、従って各組織においてそのリスクを常に念頭に置いておくことが必要であると感じています。国内においてISOが本格的に広まって早10数年が経過しました。これをお読みになっているみなさま方においても、そろそろこれらのリスクが顕在化する時期が到来しているのではありませんか?
ひょっとして、もうその問題が顕在化して悩んでおられるのではないでしょうか?

審査の際、組織が構築したマネジメントシステムにおいて気になっているのがシステムの「複雑さ」です。国民性もあるのかもしれませんが、日本では非常に緻密かつ網羅性のあるシステムを構築されておられる組織が多く、その具体的事象として大量の文書・記録を確認することが多々あります。これは審査においては確実に整合性が確認できる体制であるため、客観的かつ速やかに確認できるというプラスの要素として働くのですが、実はこの文書や記録類の多さやその内容の緻密さが「継承」においては厄介なポイントとなるのです。

それではどのような対策をとればよいのか、ヒントをいくつか挙げてみましょう。
とはいえ、特に魔法の薬があるわけではありません。

まず一つは「シンプル化を考慮する」ことです。ただし、シンプル化においては、「どこをシンプルにするか」を最も注意しなければなりません。従って、想定されるリスクにおいてマネジメントシステムのメリハリをつけることが肝要となるでしょう。

第二に、活動の目的を担当者が理解、認識することにより「日常の業務行動」を通じて自然と継承できる体制を確立することです。これにより文書や記録のスリム化が再検討されるのではないでしょうか。

以上、この二つは「継承」を考えなくとも、現状の運用における悩みであると思いますので、ぜひとも組織全体にて検討されることをお勧めします。

PJR 審査員 伊藤 隆章(いとう・たかあき)
金融機関勤務を経て、2000年より、ペリージョンソン レジストラーにて審査業務に従事。自動車、鉄道関連をはじめとする製造業への審査は1,000件以上。セミナー研修の企画・開発に携わるとともに、自ら講師も務める。趣味は空手(県大会での優勝多数)と写真(愛機はニコン)。

※本コラムは、PJRニュースレター「WORLD STANDARDS Review」に掲載されたものの再掲です。