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第10回(最終回):食品安全のための工場の「効果的」な活動とは

規格要求の中には、しばしば「効果的」という言葉が出てきます。効果的かどうかを考える場合、「その活動にどのような意味があるのか」ということに注目してみてください。

今まで審査で訪れたすべての工場では、安全な製品をつくるために日々努力されていました。ところが、FSSC 22000の認証を取得した工場で事務局の担当者から「認証を維持するため、要求事項を満たすために仕事をしているようで、本来の目的である安全な製品をつくることや工場のレベルアップにつながっている実感が得にくい」という感想をお聞きしました。当然、その工場では食品安全のためにさまざまな活動をしているのですが、すべてが本当に「効果的」であるかどうか担当者が疑問に感じていたのです。もちろんFSSC 22000の認証取得により、ある一定の食品安全マネジメントシステムを維持していることが認められているのですから、すべてにおいて無意味ということではありません。とはいえ、FSSC 22000を認証取得したのなら、単に認証を維持するために規格要求を満たすためではなく、工場のレベルアップの手段として活用するのがあるべき姿です。

そこで、私が実際の審査を通して「効果的」と感じたことを2つお話しします。

1つ目は検証に関するものです。多くの工場の各部署の責任者の方は、自分たちの工場の弱点や課題をよくご存知で、統計的な手法に頼るまでもなく、日々の業務の中で感覚的に把握されています。一方で、FSSC 22000の要求事項にある検証結果の評価では、「検証の個々の結果を体系的に分析すること」とあります。とある工場では認証取得の取組みを始めた当初、品質管理の方は、すでに自分が工場の弱点や課題がわかっているにも関わらず、改めてそれを体系的に分析することの必要性について疑問に思っていたそうです。しかし、実際に審査を進める中でこんなことを仰っていました。「常日頃から工程を見ていてこの部分が弱いとわかっていても、なかなか全員に上手に伝えることができなかったが、検証結果の評価として工場の状況を数値で明確化し、グラフでビジュアル化することで、弱い部分を万人にわかりやすく工場全体に伝えることができた。」この工場では、数値やグラフを使うことで検証という手法を「効果的」に取り入れることができたといえるでしょう。

2つ目は、コミュニケーションに関するものです。別の食品工場の審査では、製造課のミーティングに同席しました。このミーティングでは若手社員が発表する場合、製造に直接関わる内容の報告をした後、上司や同僚からプレゼンテーション方法について感想が述べられます。この活動によって、より的確にポイントをおさえた発言が増えることで会議全体の効率化が進み、会議時間も徐々に短くなりました。コミュニケーションはどの工場でも重要視していますが、この工場では、コミュニケーンをどのように「効果的」に行うかについてよく考えられていたといえるでしょう。

これらはあくまでも一例で、日々の取組みは工場によって異なります。しかし工場で安全な製品をつくるのは当たり前のことで、FSSC 22000はその1つの手法にすぎません。そしてFSS C22000に取り組む上では、いかに「効果的」にこの規格を使いこなしていくかがポイントなのです。この連載を通し、FSCC 22000の目的が安全な製品をつくることであると繰り返しお話ししてきました。FSSC 22000を取得した工場は、すべての要求事項に対応しているはずです。とはいえ、「効果的」な活動とは、単に規格に要求事項として書かれているから対応するということではなく、要求事項の目的を理解してその工場に則した活動をしていくということです。また、この連載では、工場でのFSSC 22000のなかでもHACCPの構築などの製造部門を中心にお話ししてきましたが、ご存知のように工場は製造だけをしているのではありません。工場をレベルアップしていくためには製造自体を管理しているマネジメントが重要です。そこで、今回の連載第10回を持ってこのテーマを一区切りとし、次回より新連載として、製造という枠にとらわれず、さらに幅広い視点から食品安全マネジメントについてお話しいたします。
今後も、みなさまがFSSC 22000を活用し、より安全な製品をつくり続けることを願います。またその一つひとつの製品の安全が、消費者の食の安心につながり、食品業界を取り巻く未来も明るい方向に進んでいくと信じています。
ご愛読まことにありがとうございました。次回からの連載もよろしくお願いいたします。


PJR 審査員 伊藤 毅(いとう たけし):静岡県出身、農学修士。

前職は食品メーカーに勤務し、食品製造、品質保証、技術開発部門を担当する。ISO 22000の認証取得に携わり、その後は食品安全チームリーダーとして、食品安全マネジメントシステムの実務も経験。PJRでは食品規格の審査、および審査プログラムを担当する。 ワインをこよなく愛し、ワインエキスパートの試験に向けてコルクを抜く日々。

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