【連載】食品安全のためのFSSC 22000活用術
第4回:マニュアルは同じなのにトレーニングが違う?―「従業員トレーニング」のポイント



前回は、食品工場で安全な製品を作りつづけるために「標準化」が必要であること、そして「標準化」するための手法のひとつである、マニュアル作りについてお話ししました。マニュアルで「標準化」を達成するためには、実際に作業を行う従業員にマニュアルの内容を理解してもらう必要があります。そこで大切なのは、トレーニングをする側がいかにマニュアルの解釈について正しく認識できているかということです。

みなさまは作業内容を理解してもらうために、トレーニングが必要だということは、すでによくご存じだと思います。審査先で、実施しているトレーニングについて伺うと、教育の計画書や座学やOJTのトレーニング記録、さらにトレーニングの結果を評価している力量表などをよく拝見します。FSSC 22000に取り組んでいる食品工場ならば「標準化」のために実務を行う従業員のトレーニングの仕組みをよく考えていることでしょう。

審査先の食品工場でこのようなことがありました。2台ある同機種のスライサーなどをはじめとした機械の洗浄作業について、各スライサーを担当している2人の先輩社員が、それぞれ別の新入社員一人ずつに同じマニュアルでトレーニングを行いました。ところが、新入社員2人の間でスライサー用の洗剤の取扱い方法の理解に差がありました。改めて確認していくと、2人の間でマニュアルの内容について解釈が異なっていたのです。
マニュアルには、「洗剤の製品安全データシートを確認しておくこと」と定められていました。「製品安全データシートを確認」という文章の解釈について、1人は「製品安全データシートの中身まで読む」という意味だと教えられ、もう1人は「製品安全データシートが保存されている場所を把握していればよい」と教えられていたのです。

ここでFSSC 22000の一部であるISO 22000の要求事項を見てみましょう。
6.2.2 力量,認識及び教育・訓練
a) 食品安全に影響を与える活動に従事する要員に必要な力量を明確にする.

この工場で決めた洗剤を取り扱う上での「必要な力量」とは、「製品安全データシートを確認しておくこと」です。しかし実際に新入社員にトレーニングされた内容は異なっていました。それぞれの新入社員の経験や性格も理解度に影響しますが、この時の理解にばらつきが出た原因は、管理する立場である先輩社員にあったのです。

マニュアルは、「標準化」していく上での重要なツールです。しかし、その内容の解釈に相違があれば、「標準化」を妨げる要因ともなりうるのです。それを防ぐためには、トレーニングをする側である管理者や先輩社員たちが、マニュアルの内容について統一した解釈を持つ必要があります。指導する側の解釈を統一することが、トレーニングを受ける新入社員たちのより統一した理解へとつながるのです。 さらに新任担当者へのトレーニングは、FSSC 22000の目的である食品安全だけに留まりません。新入社員は、食品安全だけでなく、品質向上や労働安全、業務効率化等の側面においても非常に大切な要素を習得しなければなりません。解釈の統一により食品安全以外の側面のトレーニングも効果的に行えるようになります。

みなさまの工場では、この春に入社した新入社員たちのトレーニングが一段落した時期でしょうか。一段落した時期だからこそトレーニングを振り返り、管理者や実際にトレーニングを行う先輩社員たちで、「必要な力量」は具体的に何を指すのかを再確認してみてください。管理する側のみなさんも新たな気づきが生まれることでしょう。 また、今回のようなケースでは、先輩たちの解釈が統一されていなかった原因のひとつとして、マニュアルに「必要な力量」が明確に記述されていなかったということも挙げられます。みなさんが再確認した「必要な力量」を、これから毎年新しく入社してくる社員たちが、統一した解釈を持てるよう、マニュアルの記述そのものを見直し、必要に応じて更新することも忘れずに。

PJR 審査員 伊藤 毅(いとう たけし):静岡県出身、農学修士。PJR審査員。
前職は食品メーカーに勤務し、食品製造、品質保証、技術開発部門を担当する。ISO 22000の認証取得に携わり、その後は食品安全チームリーダーとして、食品安全マネジメントシステムの実務も経験。PJRでは食品規格の審査、および審査プログラムを担当する。
より充実した食生活を満喫するため、今年はチーズ検定に挑戦予定。