【連載】食品安全のためのFSSC 22000活用術
第3回:理想のマニュアルとは?―「標準化」の構築のポイント



前回は、食品安全を常に維持するための手段として「標準化」が重要だということをお話ししました。いつでも安全な食品をつくるために、守らなければならない基準や条件および操作などを「標準化」する手法の1つとしてマニュアルの策定があります。
とある食品工場で、「機械の洗浄マニュアルがあるのは知っているが、内容は先輩から直接教えてもらったので読んだことがない」という話を耳にしました。そこでマニュアルの運用状況について確認したところ、「マニュアルは事務所にファイリングされているが、ファイルが濡れたら困るので現場には持ってこられず、内容を読む機会がない」とのことでした。

マニュアルに基づいた作業により安全な食品を作ることとは、言い換えると、食品安全のための計画とその実行を「標準化」するということです。この例では、マニュアルが正しく活用されていませんでした。これでは「標準化」がうまく機能しているとは言い切れず、工場の食品安全のための計画に欠陥がある可能性があります。

では工場で機能する理想的なマニュアルとはどんなものなのでしょうか。
たとえば、機械の洗浄方法を「標準化」した2つのマニュアルがあるとします。みなさんは、どちらのマニュアルが優れていると思いますか?
1 A4で15ページ。作業の内容や条件が細部にわたり記述されている。
2 A4で1ページ。作業の大まかな流れとポイントのみ写真を使って説明されている。

先ほどの工場では、①のようなマニュアルを作っていましたが、より現場で使いやすい②のマニュアルが優れていると考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、一概に優劣を決めることはできないのです。実際に①②、両方のタイプのマニュアルを備えている工場も多いように、理想的なマニュアルのひな型というものは存在せず、マニュアルを使用するTPOで理想となる形が異なります。これは、組織ごとの風土や各人の理解度や状況が異なるうえ、そのマニュアルがアルバイト向けなのか管理者向けなのかといった違いでも、必要とされる項目に差がある可能性があるからです。洗浄作業を例にとると、初めて器具の洗浄作業を行う人は、作業の内容や条件が細部にわたり書かれている①のマニュアルが優れていると思うでしょう。一方、何度も洗浄作業を経験した人は15ページもあるマニュアルをいちいちページをめくって確認するよりも、ポイントが1ページで一目瞭然となっている②のマニュアルが優れていると感じるでしょう。 「標準化」を目的とするマニュアルですが、対象によっても理想的なマニュアルが異なることがイメージできたのではないでしょうか。だからこそ、TPOに応じて作業をどの程度まで「標準化」してマニュアルに記述するのか、そこが組織として工夫のしどころです。

もちろん、携わる人すべてが、「標準化」した作業をできるようになるためには、マニュアルだけでなくトレーニングが必要です。実際に多くの食品工場では、マニュアルに沿って作業に従事している人たちに教育を行っています。しかし、同じマニュアルを使って教えているはずなのに、人によって作業に差があると感じたことはないでしょうか?次回はこのトレーニングについてお話しします。

PJR 審査員 伊藤 毅(いとう たけし):静岡県出身、農学修士。PJR審査員。
前職は食品メーカーに勤務し、食品製造、品質保証、技術開発部門を担当する。ISO 22000の認証取得に携わり、その後は食品安全チームリーダーとして、食品安全マネジメントシステムの実務も経験。PJRでは食品規格の審査、および審査プログラムを担当する。
より充実した食生活を満喫するため、今年はチーズ検定に挑戦予定。