「目標」の考え方



組織によっては、4月が新年度となり、「目標」をはじめ、次年度に向けてのさまざまな計画の見直しが行われている時期ではないでしょうか。そこで今回は、「品質目標」に関して感じている点を述べてみたいと思います。また、4月が新年度のタイミングではない組織においても、年1回は「目標」の見直しをされるかと思いますので、今後の参考にしていただければと思います。

みなさまは「品質目標」を決定する際に、どのようなプロセスを経ておられるでしょうか?
審査を通じてよく見かけるのは、「目標ありき」という考え方です。具体的にいうと製造業であれば「不良率○%削減」、サービス業であれば「顧客満足度評価の結果を○○にする」といった目標を設定し、その後に「品質目標」を達成するための行動計画が定められているケースなどが当てはまります。

つまり、これらは「目標」というゴールが先に決まり、その後にどうするかを決定するプロセスです。もちろん、このプロセスが一概に悪いと判断しているわけではありません。ですが「目標」に対する意識向上がうまくいかない、やらされ意識の元となっている例も少なくないのではないかと思います。そこでこのプロセスを、少し角度を変えて考えてみてはいかがでしょうか?

例えば「富士山に登る」と定めた場合、これは「目標」となりうるでしょうか?
厳密には「目標」としては甘いといわざるをえないでしょう。それは富士山には高さがあるため、「どこまで登るか」によって当然ゴールが変わってくるからです。

それではゴールを「富士山の頂上まで登る」と決めた場合にはどうでしょうか?
これは客観的な基準が明確となっているので「目標」たりうるでしょう。

次にこの「目標」を定めた場合、どのように行動計画を立てるでしょうか?
現実には、まず現状を把握しないと計画の決定には至らないと思います。決定するためには現状の自身の登山能力や装備の所有の有無、場合によっては仕事などの都合と登るタイミングとのすり合わせを行うことが必要になるのではないでしょうか。その際に、「現状の体力ではとてもじゃないが富士山の頂上までたどり着けない」となった場合には、まずは体力づくりを行うことから始めないと、立てた「目標」は絵に描いた餅と同じこととなるでしょう。

ISO 9001における「品質マネジメント8原則」の一つに、「意思決定への事実に基づくアプローチ」があります。これは現状を客観的に把握し、その判断によって今後の方向性を決定するという考えであり、当然のことをいっているにすぎないと思います。しかし、現実には「目標」ありきの考え方にとらわれすぎて、意外と当たり前のことを意識できていないのかもしれません。

また、「目標」そのものに少し無理をしていませんか、と感じることがあります。組織運営には永続性が求められるわけですから、この「目標」も、当然永続していくものと考えられます。目先の数値や結果にとらわれることなく、確実に達成できる見込みを客観的判断により確信していること、そして達成時の喜びがより多く味わえ、次年度の新たな展開に結びつくことを念頭に「目標」を設定してはいかがでしょうか。

以前、こんなフレーズが流行しました。ある一定以上の年齢の方はご記憶にあると思いますが、「せまい日本、そんなに急いでどこへ行く」という交通安全スローガンです。ひょっとすると「スローライフ」の先駆けだったのかもしれませんが、少しゆったりと構えて、先を見てもいいのではないでしょうか。

PJR 審査員 伊藤 隆章(いとう・たかあき)
金融機関勤務を経て、2000年より、ペリージョンソン レジストラーにて審査業務に従事。自動車、鉄道関連をはじめとする製造業への審査は1,000件以上。セミナー研修の企画・開発に携わるとともに、自ら講師も務める。趣味は空手(県大会での優勝多数)と写真(愛機はニコン)。

※本コラムは、PJRニュースレター「WORLD STANDARDS Review」に掲載されたものの再掲です。